
中国社会の「空気」もよく変わる。
2020年始めにコロナ禍が顕在化した時である。武漢でのコロナ封じ込めに失敗した習近平政権は、中国社会の厳しい批判に曝された。そのあまりの激しさに、この政権は大丈夫かと本当に心配したほどだ。ところがゼロ・コロナ政策で乗り切った中国は、先進諸国がコロナで悪戦苦闘する中、自国のガバナンスに自信を持ち、トランプ第1期政権の品のない中国批判に「戦狼外交」で立ち向かうと、国民は「世界大国」中国の復活を実感した。中国社会の「空気」は一変し、習近平氏は求心力を一挙に高め、22年10月の第20回党大会において圧勝した。
ところが日の出の勢いだった習近平政権は、その直後から陰りが生じた。それは同年12月、国民の強い反発に直面して突如、ゼロ・コロナ政策を転換したことを端緒とする。その後、経済は急回復するはずだったのに、それも実現せず、24年初めには、国民の将来に対する期待値は下がり、政権への不満の高まりと求心力の低下につながった1。
関税戦争に耐久力を得た習近平政権
その中国において、現在、再び「空気」の変化が起こっている。ご想像の通り、ドナルド・トランプ米大統領の対中関税戦争が大きく影響している。24年初めに感じていた習近平政権に対する求心力の低下の主要な原因は、当局の経済運営に対する不信であった。それに伴う不景気感は、本年1月に底を打っている。習近平路線の基本的枠組みは残しつつも、この1年をかけて修正を図ったからである。民営経済や民営企業家を重視し、外資を重視する政策に転換し、具体策も打ち出した。
まだまだ不十分という見方もあるが、当局がどこまでちゃんとやれるのか、市場がしっかりと見守っている段階にある。経済がすぐに上向くということではないが、間違いなく、少し持ち直してきている。
そこに中国社会の自信を強めるいくつかの出来事が起こった。今年1月に発表されたDeepSeek最新モデルは、その性能の高さで世界を驚かせた。2月には、中国の「ナタ2」(邦題:ナタ 魔童の大暴れ)が興行収入でアニメ映画の世界歴代1位となり、4月には、中国で世界初の、ロボットのハーフマラソン大会が開催された。これらの出来事は、中国社会の「空気」に大きく影響する。
このように自信を強める中国社会を相手に、トランプ大統領は関税戦争を仕掛けているのだ。

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