「なくても済む国」に変わるアメリカ?

Foresight World Watcher's 5 Tips

執筆者:フォーサイト編集部 2025年6月29日
エリア: 北米 ヨーロッパ
防衛費5%への引き上げで合意したNATO首脳会合はトランプ外交の「大勝利」。しかし、その自立の行き着く先は?[マーク・ルッテNATO事務総長(左)とトランプ米大統領(右)=2025年6月25日、オランダ・ハーグ](C)AFP=時事

 アメリカを「愛されるよりも恐れられる国」にしたいと望んでいる。ブッシュ(子)政権で国家安全保障会議(NSC)の高官などを務めたコリ・シェイク氏は、世界秩序のリード役から降りようとするトランプ外交をそう評します。しかし、そのどちらの感情も国際社会に育つことはないだろう。なぜならこの道を進んだ先のアメリカは、「愛するには残忍すぎるが、恐れるほどの関わりもない」存在だからだ……。アメリカは次第に「なくても済む国」になるとの見立ては辛辣ながら、パートナー国との関係に働く力学を鋭く言い当てているようです。

 自助を求めるアメリカに対して、NATO(北大西洋条約機構)加盟各国は防衛費増額で応えました。「大勝利だ(big win)」と上機嫌で会見したドナルド・トランプ大統領でしたが、これも上記の見立てに従えば、むしろ同盟が衰退に向かう「終わりの始まり」になりそうです。NATO各国の国防費合計はアメリカ抜きでもロシアを凌駕し、中国の国防費は日本の6倍に近いというアジアに単純に当てはまる議論ではないものの、このシェイク論考をはじめアメリカの同盟の行方をめぐる考察が並んだ「フォーリン・アフェアーズ」雑誌版最新号はぜひチェックしておきたい内容でした。

 フォーサイト編集部が熟読したい海外メディア記事5本、皆様もよろしければご一緒に。

Beware the Europe You Wish For【Celeste A. Wallander/Foreign Affairs/雑誌版7・8月号、オンライン公開6月24日付】

 ウクライナ侵攻をめぐるロシアとの和平協議が頓挫し、米国まで加わったイスラエル・イラン戦争が危うさをはらみつつ停戦に入り、NATO首脳会議で欧州諸国の防衛費の大幅な追加増額が決まる――。

 そんなタイミングで米国の外交・安全保障専門誌、「フォーリン・アフェアーズ(FA)」の雑誌版最新号(7・8月号)が発行された。やはりと言うべきか、注目に値する論考が数多く並んでいる。そのなかから今回は何本か紹介しよう。

「何十年もの間、アメリカは欧州の[北大西洋条約機構]NATO同盟国に対し、自国の防衛のためにもっと努力するよう求めてきた。[略]トランプ大統領の1期目、そして2期目に欧州の国防支出を広く批判するレトリックが、この[欧州の防衛費の]増加に一役買っているのは事実だ」
「しかし、トランプが政界入りする以前から増額は進行していた。[2014年のクリミア併合以降の]この10年以上、NATOの同盟国は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領のウクライナに対する、あからさまな侵略を前兆として、ロシアが欧州の安全保障にもたらす脅威の高まりに注目してきた。また、ワシントンが自分たちの地域への関心を減らし、アジアへの関心を強めていくのを警戒しながら見守ってきた。[略]トランプの再選は、欧州大陸の独立性の高まりを強調する一助となったにすぎない」

 このように始まる「あなたの望む姿になる欧州に注意せよ」(6月24日付オンライン公開)の筆者は、米ペンシルベニア大ワシントン事務所のエグゼクティブ・ディレクターで同新アメリカ安全保障センター(CNAS)准上級研究員のセレスタ・A・ワランダー。バイデン政権で国際安全保障問題担当の国防次官補を務め、ウクライナへの軍事支援を管轄してきた人物だ。

 それゆえ、トランプのみならず民主党の大統領たちも欧州の安保面での自立を求めてきた点を強調しつつ、「欧州の人々は今、根本的に変化した米国を目の当たりにし、米国のリーダーシップに投資することで自分たちの利益を確保できるとはもはや確信していない」として、次のように続ける。

カテゴリ: 軍事・防衛
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